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こころの病気
人の記憶や意識、知覚やアイデンティティ(自我同一性)は本来なら、一つに整理されています。「解離」とは、こうした感覚を整理する能力が一時的に失われた状態です。
この状態に入ると、過去の記憶の一部が抜け落ちる、感情が希薄になる、といったことが起こってきます。
ただ、解離状態では、通常なら体験されない知覚や行動が現れることもあり、異常行動(ストレスなどが原因となり、ある日突然、職場や家庭などから失踪してしまう症状(解離性遁走)等)や、新しい人格の形成(多重人格障害等)などは、その代表例です。このような解離状態は軽度で一時的な場合もありますし、健常人に現れることもあります。
こうした症状が深刻、かつ日常生活に支障をきたすようになった状態を解離性障害と称します。主な原因としては、ストレスや心的外傷が挙げられています。心的外傷には様々な種類があり、災害、事故、暴行を受けるなどの一過性のものがある一方で、性的虐待や長期にわたる監禁など、継続的に繰り返されるものもあります。
そうした辛い体験によるダメージを回避するために、精神が緊急避難的にその機能の一部を停止させることが、解離性障害につながると考えられています。
解離性障害の症状には様々なものが知られています。WHOの診断ガイドラインICD-10では、解離性障害のカテゴリーとして主に次のようなものが挙げられています。
何かの心的ストレスをきっかけに、出来事の記憶を失うことです。数日のうちに記憶が蘇るケースが多いのですが、時には長期に及ぶこともあります。
アイデンティティ(自分が誰かという感覚)が失われ、失踪して新たな生活を始めるなどの症状を呈します。学校や職場などで極度のストレスに曝され、しかもそれを誰にも打ち明けられない状態で突然始まり、多くはそれまでの自分に関する記憶を失います。
体が硬く、動かなくなることです。
体を動かしたり、言葉をかわしたりができなくなることです。
自分が自分であるという感覚が失われ、まるで自分を第三者の目線から眺めているように感じられます。
心理的な要因により、昏睡状態になる、体が思い通りに動かせなくなる、感覚が失われるなどの症状が現れます。
これらの中でも多重人格障害はDSM(アメリカ精神医学会の診断ガイドライン)では「解離性同一性障害」と名づけられ、極めて特徴的な症状を呈します。患者は複数の人格をもち、それらの人格が交代で現れます。ある人格が出現している間は、別の人格の記憶が無い場合が少なくなく、多くは生活上の支障をきたします。
これらの解離性の症状は、それを周囲に理解し、信じてもらうことが困難なケースが少なくありません。特に疾病利得(病気であることによって得られる利益)が絡んでいるようなケースでは、詐病ではないかと疑われることがあります。専門医にも、その診断が困難だったりします。
解離性障害の治療の基本は、安心して治療ができる環境を整えることであり、家族など周囲の人による理解、および主治医との信頼関係とサポートが大切です。
解離性障害の症状の多くは、ある程度の時間を経れば、自然に解消されたり、別の症状へと移行していったりするのが一般的です。早い段階で、催眠や暗示によって、解離性の健忘や、失立(立つことができなくなる)、失声(声を発することができなくなる)、麻痺等を解消することは、効果が期待できないばかりでなく、症状を悪化させるリスクも伴います。安全な環境や自己表現の機会を上手に提供しながら、症状の自然経過を見守る態度こそが重要なのです。
また、解離性障害に有効な薬は無いと言われています。統合失調症と混同されやすい幻覚についても、抗精神病薬もあまり有効ではないようです。それよりはむしろ、解離性障害の症状を悪化させているような併存症に対する薬が処方されます。例えば、うつ症状に対する抗うつ薬や、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を含む神経症症状に対する精神安定薬などです。
解離性障害は、けっして焦らずに、長期的な目で見て、じっくりと治療に取り組んでいく姿勢が大切です。
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