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こころの病気
年をとると、誰しも、「もの忘れ」が増えてきます。
今まで普通にやれていたことが急にできなくなった、通い慣れているはずの道がわからなくなった、大切な約束を忘れてしまった、同じことを何度も聞いたりするようになった――こうしたいわゆる「もの忘れ」には、単なる加齢による場合(良性健忘)と、軽度認知障害(MCI)、および認知症の初期段階の場合とがあります。
そして、いずれかを見極める診断が非常に大切になってきますので、「もの忘れ」が増えて気になったなら、一度専門医を受診なさるよう、お勧めいたします。
加齢にともなう年齢相応の「もの忘れ」で、心配はいりません。
認知機能(記憶、決定、理由づけ、実行など)のうち1つの機能に問題が生じてはいるものの、日常生活には支障が無い状態のことで、健常者と認知症の人の中間段階(グレーゾーン)に位置します。
MCIを放置しておくと、認知機能が低下していき、5年間で約50%の人が認知症へと進行すると言われます。しかし、軽度認知障害の段階で適切な治療を行うと、本格的な認知症の発症を防いだり遅らせたりできる場合があるので、MCIと診断されたら早めに治療を受けるようにしましょう。
認知症とは、老化に伴う病気の一つで、様々な原因で脳細胞が死んだり、働きが悪くなったりすることによって、記憶・判断力の障害などが起こり、社会生活や対人関係に支障が出てくる状態(およそ6ヶ月以上継続)を言います。
わが国では、高齢化の進展とともに、認知症の患者数も急増しています。65歳以上の高齢者では、7人に1人くらいが何らかの認知症を患うと見られています。
症状が軽いうちに認知症であることに気づき、適切な治療を行えば、認知症の進行を遅らせたり、タイプによっては症状を改善したりすることも可能です。
認知症は単一の病気ではなく、いくつもの種類があります。
主なものには、下記の4つが挙げられます。
このうち60~70%はアルツハイマー型認知症で、約20%は脳血管型認知症と言われており、認知症の約9割をこの二大疾患が占めています。
アミロイドβ(ベータ)などの特殊なたんぱく質が脳に溜まり、神経細胞が壊れて減ってしまうために、神経が情報をうまく伝えられなくなり、機能異常を起こすと考えられています。また、神経細胞が死んでしまうことによって、脳という臓器そのものも萎縮していき、脳の指令を受けている身体機能も徐々に失われていきます。アルツハイマー型は、認知症のなかでも一番多いタイプとされています。男性よりも女性に多く見受けられます。
脳梗塞や脳出血、くも膜下出血など、脳血管性の疾患によって、脳の血管が詰まったり出血したりして脳細胞に酸素が届かなくなり、神経細胞が死んでしまうことによって、認知症を発症します。
レビー小体型認知症では、レビー小体(神経細胞にできる特殊なたんぱく質)が脳の大脳皮質(人がものを考える場所)や、脳幹(生命活動を司る場所)にたくさん集まってしまいます。レビー小体がたくさん集まっている場所では、情報をうまく伝えられなくなるため、認知症が起こります。
頭の前部にある前頭葉と、横部にある側頭葉が萎縮することによって起こるタイプの認知症です。若い人にも発症が見られます。
認知症を完全に治す治療法は、現在のところ存在しません。そのためでしょうか、認知症はどうせ治らない病気なのだから医療機関にかかっても意味が無いと言う方がおられます。しかし、これは誤った考え方です。認知症についても早期発見、早期介入・治療はとても重要なのです。
認知症の治療法には、薬物療法と非薬物療法があります。
アルツハイマー型認知症の薬物療法には、認知機能を増強して、中核症状(記憶障害や見当識障害(自分が置かれている状況がわからなくなる)など、脳の神経細胞が壊れることによって直接起こってくる症状)を少しでも改善し、病気の進行を遅らせる治療と、周辺症状(行動・心理症状:不安、焦り、怒り、興奮、妄想など)を抑える治療があります。薬の効果と副作用を定期的にチェックしながら、個々の患者さんの症状に合わせて使用していきます。
脳血管型認知症では、脳血管障害の再発によって悪化していくことが多いため、再発予防が重要となります。脳血管障害の危険因子である高血圧、糖尿病、心疾患などをきちんとコントロールするとともに、多くは脳梗塞の再発を予防する薬剤が使われます。
また、意欲・自発性の低下、興奮といった症状に対して脳循環・代謝改善薬が有効なケースもあります。抑うつ症状に対して、抗うつ薬が用いられたりもします。
薬物を使わずに脳を活性化し、残っている認知機能や生活能力を高める治療法です。
認知症と診断されても、本人にできることは、たくさん残っています。まずは家庭内で本人の役割や出番(洗濯物をたたむ、食器を片づけるなど)をつくって、前向きに日常生活を送ってもらうことが大切です。
また、昔の出来事を思い出してもらう(回想法)、無理のかからない範囲で書き物の音読や書き取り、計算ドリルをする(認知リハビリテーション)、音楽を鑑賞したり、演奏したりする(音楽療法)、花や野菜を育てる(園芸療法)、自分は誰で、ここはどこかなど、自分と自分のいる環境を正しく理解する練習を重ねる(リアリティ・オリエンテーション)、などの方法が効果的です。
ほかにも、ウォーキングなどの有酸素運動を行う(運動療法)、動物と触れ合う(ペット療法)などの方法が知られています。
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